23人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
順調な夏の日
小さい頃、ヒーローに憧れていた。
ヒーローは絶対正しく、誰からも責められず、賞賛される。まるで神のような立場が羨ましかった。
だけど、そうなるのは不可能だと思っていた。
あんな出来事があるまでは。
「アイドルの熱愛発覚!
ファンから怒りの声が!」
朝、スマホに流れてきたニュース。
コメント欄は悪意に満ちていた。
「マジで許せない 恋愛禁止のはずでしょ」
「いくら課金したと思ってるんだ」
「ファンかわいそw」
僕は眉をひそめる。
簡単に人を非難できる世の中だ。本人が見たらショックを受けそうなコメントが並んでいる。
「芸能人だって人権あるんだから、許してあげようよ」
それだけつぶやく。ついでに 智花と他愛のないやりとりをして「今日もがんばってね」とスタンプを送る。
今年は彼女の教員試験が終わる頃、帰省するつもりだ。
窓を開けると、夏の空は気持ちよく晴れていて、もうセミが騒がしい。
下期は卒論を残すのみ。まだ途中だが、教授ウケもいい。先日内定も出た。
そろそろバイトでもしようと、散歩がてら大学の掲示板を見に行くことにした。
だが、バイトの口は向こうからやってきた。
「吉崎ー!」
正門前で呼び止められた。
「刈谷、どしたの」
同じ高校から進学した友達は、ぽっちゃりした体で走ってきて、ふうふう言いながら立ち止まり、顔の前で、両手をパン! と合わせた。
「お願いがあるんだけど……バイトする気ない?」
最初のコメントを投稿しよう!