順調な夏の日

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順調な夏の日

 小さい頃、ヒーローに憧れていた。  ヒーローは絶対正しく、誰からも責められず、賞賛される。まるで神のような立場が羨ましかった。  だけど、そうなるのは不可能だと思っていた。  あんな出来事があるまでは。   「アイドルの熱愛発覚!   ファンから怒りの声が!」  朝、スマホに流れてきたニュース。  コメント欄は悪意に満ちていた。 「マジで許せない 恋愛禁止のはずでしょ」 「いくら課金したと思ってるんだ」 「ファンかわいそw」  僕は眉をひそめる。  簡単に人を非難できる世の中だ。本人が見たらショックを受けそうなコメントが並んでいる。 「芸能人だって人権あるんだから、許してあげようよ」  それだけつぶやく。ついでに 智花(ともか)と他愛のないやりとりをして「今日もがんばってね」とスタンプを送る。  今年は彼女の教員試験が終わる頃、帰省するつもりだ。  窓を開けると、夏の空は気持ちよく晴れていて、もうセミが騒がしい。  下期は卒論を残すのみ。まだ途中だが、教授ウケもいい。先日内定も出た。  そろそろバイトでもしようと、散歩がてら大学の掲示板を見に行くことにした。  だが、バイトの(くち)は向こうからやってきた。 「吉崎ー!」  正門前で呼び止められた。 「刈谷(かりや)、どしたの」    同じ高校から進学した友達は、ぽっちゃりした体で走ってきて、ふうふう言いながら立ち止まり、顔の前で、両手をパン! と合わせた。 「お願いがあるんだけど……バイトする気ない?」
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