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正義
パトカーを見送る頃には、外がすっかり暗くなっていた。
「今日はありがとう」
事務室で、僕は店長と缶コーヒーを飲んでいる。
額の絆創膏に触れた。パートさんが「ヒーローの勲章ね」と貼ってくれた。手当より「ヒーロー」と呼ばれたことが嬉しかった。
男は暴れたが、僕は蹴られても殴られても手を離さなかった。そのうち警察官が来て、男を引き渡した。
倒れたおじいさんは救急車で運ばれ、先程軽傷だったと連絡が入った。
「いえ……万引きって、ホントにあるんですね」
平静を装っていたが、内心、僕は高揚していた。
動いてよかった。
僕は正しいことをした。ヒーローになったんだ!
「正直、今回は微妙なケースだったけどね」
「え?」
「未会計の商品を外に持ち出したら、声をかけるようにしてるんだ。店内だったら『これから払うつもりだった』って言い訳がきくからね」
「そうなんですか」
「今回は傷害の現行犯ってことで逮捕になったんだ。もちろん、万引きについても取り調べるって」
きっと常習犯なんだろうなぁ、と店長はつぶやく。
「……僕、出すぎた真似をしたんでしょうか」
「いやいや、そんなことはないよ。
あの親子は助かったし、あのまま盗まれていたらカバーするのは大変なんだ。
利益が10%の商品を盗まれると、同じ商品を10個売り上げないといけない」
「それは、大変ですね」
「……万引きは悩みの種だよ。
うちみたいな小さな店だと特にね」
店長は深いため息をついた。
「僕、見張り、がんばります!」
「ああ、そんなに気負わなくていいよ。一番はお客様対応だから。
今後は怪しい人いたらインカムで教えて。飛んでいくから」
「はい」
翌日、僕は「気持ちばかりだけど」と店長から感謝状と臨時手当をもらった。
次の日には話を聞きつけた新聞の取材が入った。
「当然のことをしたまでですよ」と、僕は語った。
ああ、ヒーローの立場はなんて気持ちがいいんだろう。
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