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—私——
教室へ向かう足取りが重い。傾いた赤い夕日が照らした私の影は、まるで今世を潔く成仏できなかった亡者のようだ。
今朝、私が学校に来ると、私の机に1通の封筒が入っていた。横長の白い封筒は、キラキラした四葉のクローバーのシールで留められており、どこか甘い香りがした。
その瞬間、私は未来が読めた。そういうことなのだ。
だが、念のため中身を確認する。中には淡い青色の便箋に「伝えたいことがあるので放課後17:00、北校舎2階の空き教室に来てください」という文字が綴られていた。末尾に私の名前を添えて。
やはり、そういうことだ。こうなるのを避けるためにクラスの者とは距離を取っていたつもりだったが、そんな私に好意を持つ変わり者がいるとは……。
ほとほと困り果てた私であったが、何をすべきかの答えはとうに出ている。それに従わざるを得ない。
そういうわけで、私は17:00に間に合うように北校舎の空き教室に向けて、重たい足を進めている。階段を上った後の一直線の廊下。その無機質な表面を、額に汗をかきながら一歩一歩踏みしめる。加えて窓からは騒がしい蝉の声。すっかり体力を奪われてしまいそうだ。それでも、私が歩みをやめることはない。一歩、もう一歩と進む。
ようやくたどり着いた。深呼吸をしてから、ガララと扉を開ける。
彼は既に着いていた。その空間に流れていたエアコンの凉気が私にまとわりつく。心を無にして、きちんとした身なりの彼に向かって問う。
「あなたが手紙をくれたの?」
「え……、うん、そう。来てくれてありがとう。あれ、名前書いてなかったっけ?」
「ええ、誰だか分らなかったわ……、それで、話って?」
全てが分かっていた私であったが、そのことを彼に悟られてはいけない。体から流れる汗は涼気で乾いていっているはずなのに、じっくりと背中を伝う汗はなぜかはっきりと感じられる。
「あ、そうなんだ……、いきなりそんなに話したことない男子から手紙とかもらっても困るよね、ごめんね」
「いえ…、そんな」
そして長い沈黙が流れる。勇気を振り絞ろうとしている彼を私はただただじっと待つしかない。そして——。
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