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緑寿と灯真は、シュタルトの漁師宿に泊まっている。伊世には町に着いたとき軽く挨拶はしたが、母の生業に興味を持ってもらえたのが意外だった。灯真は顔を綻ばせた後、少し寂しげに海を見つめた。
「僕は家族に疎まれていたみたいだから。嫌だけど、そんな記憶の感情だけが残っている。海里華のお母さんの手料理を食べたら、気が晴れるんじゃないかと思ってさ」
普段口にしないが、やはり灯真は失った記憶に痛みを覚えるときがあるようだった。
「あのさ、もしよかったら海里華とお母さんのことを聞かせてくれるかな?」
灯真に言われて、海里華はそういえば彼に私生活をほとんど話していないことを思いだした。今年の夏になれば、出会って4年。灯真ももうすぐ一六歳になる。
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