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 漁師の大漁旗を真似たのが由来らしい。伊世の屋台にも、赤地に白い飛魚が描かれた旗が掲げられている。海で亡くなった恋人が、漁船に立てた旗と同じ意匠だそうだ。  この下町では、海里華は隠れるような暮らしはしていない。いつもの外套を脱ぎ、鱗のある肌を晒しても安心できる。灯真は、海里華の姿を見ても嫌な顔をしたことはなかった。  そして、町行く魔種の様子をむしろ羨まし気に眺めている。故郷を持たない灯真にとって、昔ながらの助け合いで成り立つ魔種たちの暮らしに心惹かれるようだった。 「灯真はいい食べっぷりだねぇ。ほら、育ち盛りなんだからたんとお食べ」 「ありがとうございます、伊世さん」  屋台の前に、幾つかの卓が置かれている。そこに向かい合わせで、海里華と灯真は座っていた。
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