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「子供に寄ってたかって、それは酷いんじゃないか」  灯真が差別への怒りを露わにしたので、海里華はそれ以上は口にしなかった。  もう昔の話だ。まだカレル王国は先王の時代で、季宗の御世とは違う。  人間の学校には行けなくて、結局この下町に移り住んで、伊世の仕事を手伝いながら魔種の老人が営む私塾で勉強を習ったのだった。 「だから緑寿に出会った時も、なかなか信用できなかった。でも、水を司る神珠(オーヴ)が言ったの、『運命を変えるために、旅立つ時が来た』って。私の中の何かが、音を立てて弾けた気がした。悪意が満ちた世界に、このまま縛り付けられるのは嫌だったから」  心の水底に沈めていた想いに、八年前、緑寿が座っていたのと同じ場所で、灯真は耳を傾けてくれている。  精霊主(エレンシア)として旅に出なければ、こんな嬉しいことはなかった。  その小さな頷きは、海里華にとって世界が大きく変わった証拠であるような気がしていた。
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