7人が本棚に入れています
本棚に追加
/164ページ
世界を救う、選ばれた『精霊主』。
その言葉を胸に日々修行したはずだ。なのに、力が及ばぬ情けなさに腹が立った。こんな残酷な勝利を、勝利だと呼びたくなかった。仲間を失ったうえ、世界すら救えぬというのは。
青年の心に、闇が侵食し始めていた。魔種の長である久遠が放った呪いはこれからだった。
心を蝕む毒が、ようやく効いてきたのだった。人間であるはずの彼にも、絶望よりさらに深い『禍つ闇』が生まれ始めていた。
手から、剣が離れた。
共に、ずっと戦いを潜り抜けてきた。自らの分身と言えるその剣を、青年は無造作に投げ捨てたのである。床に打ちつけられた金属音が、空虚な静寂に響き渡った。
最初のコメントを投稿しよう!