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「綾…?大丈夫?」
隣のママが私に囁くように聞く。
「うん、大丈夫」
「そう?それなら今度、チャリティーを手伝ってくれる?」
きっとママも何かしら執着を緩ませ、かわりに何かを受け取るイメージを先生から教わっている。だから、とりあえず今すぐ私に何かを受け取らせようとしているのだ。
「いいよ、手伝う」
「ありがとう、綾」
「うん」
その時、チャペル中の空気が揺れて両開きのドアに皆が注目する。そこにはぴったり揃った角度で腰を折る鈴と沖田さんがいた。
二人がゆっくりと姿勢を正すと
「王子様とお姫様だ…」
「リアルに、それ…」
鈴の友人の声が小さく聞こえる。鈴はもっと嬉しそうな顔をしてもいいのに…そうは思ったけれど、それ以上は何も思わない。
同じ条件で育ったはずで、違ったのは私が生まれた時には鈴がおらず、鈴が生まれた時にはすでに私がいたことだけ。
私は鈴になりたいのではない。
私を見て…私だけを見て…私だけでいいじゃない…
小さな頃からの私の固執、執着、わがままがやっと音を立てて萎んでいった。
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