結婚式

5/18
前へ
/82ページ
次へ
「綾…?大丈夫?」 隣のママが私に囁くように聞く。 「うん、大丈夫」 「そう?それなら今度、チャリティーを手伝ってくれる?」 きっとママも何かしら執着を緩ませ、かわりに何かを受け取るイメージを先生から教わっている。だから、とりあえず今すぐ私に何かを受け取らせようとしているのだ。 「いいよ、手伝う」 「ありがとう、綾」 「うん」 その時、チャペル中の空気が揺れて両開きのドアに皆が注目する。そこにはぴったり揃った角度で腰を折る鈴と沖田さんがいた。 二人がゆっくりと姿勢を正すと 「王子様とお姫様だ…」 「リアルに、それ…」 鈴の友人の声が小さく聞こえる。鈴はもっと嬉しそうな顔をしてもいいのに…そうは思ったけれど、それ以上は何も思わない。 同じ条件で育ったはずで、違ったのは私が生まれた時には鈴がおらず、鈴が生まれた時にはすでに私がいたことだけ。 私は鈴になりたいのではない。 私を見て…私だけを見て…私だけでいいじゃない… 小さな頃からの私の固執、執着、わがままがやっと音を立てて萎んでいった。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3428人が本棚に入れています
本棚に追加