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まずは、『最低の嫁』から
私は若くして結婚したので、世間知らずだった。
実家には祖父母もいて、母親はいつもあれこれ言われて陰で泣いたり怒ったりしてたことを今でもおぼえている。
それもあって、私は“長男とは結婚しないぞ、特に農家とは”と誓っていた。
でもね、好きになったのがたまたま長男だった、農家ではなかったけど。
だから、はじめのうちは義父母と仲良くするぞ、いい嫁になるぞと張り切ってた、『あの日』までは。
(その頃はまだ二世帯に建て替えていなかった)
お義母さんの姉、つまり私にとっては義理の伯母さんが遊びに来た日。
久しぶりの再会のお義母さんと伯母さんは、積もる話に花が咲き、お料理をするのも二人でずっとやってて。
“嫁としては手伝うべき?”と思ったんだけど、立ちあがろうとした私を夫の妹が止めた。
「せっかく二人で水入らずなんだから、ほっときなよ」
「そう?それもそうか」
悪阻もあって、正直料理なんかしたくなかったので、私はそのまま座ってたんだけど。
次の日。
伯母さんが帰ったあと、お義母さんが私たち夫婦の部屋に来て
「あんたみたいな最低な嫁、見たことないわ」
とえらい剣幕でのたまう。
「は?」
「姉さんがびっくりしてたわ、客にやらせて自分は座ってるって、どういうことやって」
「それは……」
「恥ずかしかったわ、こんな最低の嫁に息子取られたと思ったら!」
と言いながらおいおいと泣き出す始末。
何を言ってるんだこの人は、とか、邪魔しないようにしてたんだから、とか言いたい気持ちもあったけど。
「……すみません、気が付かなくて」
言い訳をすると火に油を注ぐのは目に見えていたから、とりあえず謝った。
“感情の起伏が激しい人”、最初に会ったときからそれはわかっていた。
だからずっと緊張してたんだけど。
「こんな恥ずかしい思いしたのは、初めてやわ」
と言いながらハンカチで涙を拭う。
「亮太がかわいそう、なんでこんな最低の嫁に……」
およおよおよ……って、おい!
何回“最低の嫁”って言うんだよ!
___いや、待てよ、最低ってことはもう頑張らなくてもいいじゃない?
私の中で何かがプツンと切れた。
そう
あの日から私は、いい嫁になるために努力するということを放棄した。
そしたら、とても気が楽になった。
頑張ってるお嫁さんに言いたい!
一度、“最低の嫁”って言われることをオススメ。
だってそれ以上に下がることはないってことだもんね。
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