(二)

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 そうして彼の席の近くで、私は、今度はうっかりを装ってハンカチを落とした。そして拾い上げようと前屈みになった。その際に落としたハンカチを掴みつつ、彼の席の方を見てみた。  ちょうど彼は、椅子の背もたれに背を押し付けてのけぞるような体勢だったため、雑誌を立てて読んでいた。そのとき、その雑誌のタイトルを確認することができた。  そのタイトルは……、『モー』。それは楽習研究社という出版社が発行しているもので、一部マニアックな人には超絶愛読されている超常現象やオカルト系の雑誌だった!  彼が時折発する声に、クラスの生徒たちは徐々に慣れてきてはいるが、例外なくみんな気味悪がっていた。ヒソヒソと揶揄する声は本人に聞こえるほどの声量だったが、本人の耳には全く届いていないようで、雑誌の中身を読んでは突然大声で感情を発していた。 (続く)
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