紡がれていく縁

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 唐沢憲司が藤枝美花と最後に会ったのは、布施美雪の葬式だった。  普段は決して取り乱したりしない晴海が、美雪さんの事故現場にいたわけでもないのに、まるで自分のせいであるかのように自分を責め、藤枝家の人たちに頭を下げていた。 「あの時、唐沢さんだけが冷静に『お前のせいじゃない』って晴海さんに諭していたじゃないですか。私、その様子を見ていて、あぁこの二人は本当に仲が良いんだなって思ったんですよ」  美花はその時の記憶が鮮明に残っていたので、唐沢のことを覚えていたのだった。 『お前のせいじゃない。お前が簡単に頭を下げたら、それこそ美雪さんが浮かばれないだろ!』  人は万能ではない。どんなに他人の苦労や不幸といったものを引き受けようと思っても、人生までは引き受けることができない。  それに相手の意志や考えもある。これはお互いを思いあって一緒になった二人なら尚更なのではないだろうか。  大切な人だから、いつも幸せでいてほしい人だからこそ、もし自分の身に不幸が降りかかってきた時は、それがその大切な人にまで影響がおよばないようにと願う。  人と人をつなぐ絆は小さな思いやりによってできているものなのだ。 「これからの予定は決まっているんですか?」 「いや、別に」 「じゃあ、一緒にカラオケに行こうよ」  美花と唐沢の会話に割り込むようにして小学生の優也が言った。  カラオケか。前に歌ったのはいつだっただろう。歌は得意ではない。だけど、歌うことによってストレスが解消されてすっきりするのは科学的にも認められている。 「いいですね、行きましょうよ」  和泉も乗り気だった。  和泉と美花は年齢が近い。案外馬が合うかもしれない。  しかし、二人に和泉のことを何と紹介するべきか。  優也の父親の晴海は刑事である。優也は街で俺と出会ったこと、俺が若い女性を連れていたことを晴海に隠すことなく話すだろう。  もちろん俺としては間違ったことをしているとは思っていない。しかし、法的には問題であり、和泉の保護者に訴えられたら罪になることは自覚している。 「柊和泉です。よろしくお願いします」  唐沢の思惑など露ほども知らずに、和泉は美花と優也の二人に笑顔で挨拶していた。カラオケを断って帰るのが難しい空気が形成されつつある。 「それでは、お邪魔でないのなら」  唐沢は仕方なく同意した。 「歌、好きなんです」 「どんな音楽を聴いてるの? 私は『唯』とか好きなんだけど」 「唯は歌詞が良いんですよね」 「そうそう」  まだカラオケボックスに入ってもいないのに、和泉と美花はすっかり打ち解けていた。  コミュニケーション能力が高いのだろうか。それとも話しやすい雰囲気でもあるのだろうか。何事も控え目な印象の和泉に対して、美花は活発でエネルギッシュな印象である。一見、正反対のようにも見えるのだが。  医療や薬学のことなら詳しい唐沢ではあるが、人付き合いについては苦手だった
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