ヒッチハイカー

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「いいじゃん。どうせまだ遊び足りないと思っているんだろ?」 「俺らと飲もうよ。奢ってあげるからさ」  すでにアルコールが入っているのだろう。三人の若者たちは上機嫌だった。  傍から見て柄は良くない。女性への声のかけ方や腕を掴んで簡単には逃げられないようにする様子から鑑みて、すでに何人かの女性は泣かされているかもしれない。 「離してください!」  和泉はなんとか掴まれた腕を振りほどこうと悪戦苦闘していたが、非力な彼女にそれは叶わない。 「おい、やめろ!」と唐沢が若者たちに声をかけようとしていた時、和泉の腕を掴んでいた男の頭髪が突然燃え上がった。 「えっ?」  予想外の出来事に残りの二人はどよめいた。  人間の頭髪がいきなり燃え上がるなんて常識的に考えてありえない。油のようなものが撒かれたわけでなければ、火種となるものが近くにあったわけでもない。ただ、連れて行こうとした少女が、怖い顔をして腕を掴んでいた男の頭を睨んでいただけだった。  和泉は自由になった右手を広げて、その(てのひら)を上に向けた。  その掌の上に、まるで魔法のように小さな炎が突然灯った。  二人は驚愕した。その炎が手品のようなハッタリの炎でないことは、暴れまわって自らの頭髪の火をなんとかして消そうとしている男の様子を見ていれば分かる。 「なんだよ、それ」 「おい、やばいよ。コイツ」  もうナンパどころではない。下手をすると、文字通りの意味で火傷する。  自力で頭髪の炎を消火した男と、すっかり怯えきってしまった男の二人は、脱兎の如く逃げていった。  和泉は緊張状態になっていた。掌の上の炎が闇を照らしていた。  一連の様子を目撃してしまった唐沢だったが、驚きや恐怖よりも、ただ彼女のことが心配だった。 「大丈夫か?」  肩に手を置いて、できる限り優しく和泉に声をかけると、彼女は「あ、唐沢さん」と年相応の少女の表情に戻った。それと同時に掌の上の炎も消失した。  何かを話したそうにしている。でも、今はそれを悠長に聞いている暇はなさそうだ。  通行人の何人かが先ほどの発火現象を目撃していた。ケータイのカメラをこちらに向けている奴もいる。通報や投稿でもされたら厄介だ。 「行こう」  唐沢は有無を言わさぬ口調で言い、和泉を守るようにして、彼女を自分の車に連れ戻した。  サイドブレーキを解除して、ギアを切り替えてアクセルを踏む。  車は勢いよく走り出す。  さて、どうしよう。  和泉の秘密の一端が分かったところで、疑問は増えていくばかりだった。
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