ミックスジュース

7/9
34人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
いつまでも名刺に見入る私に、相馬くんは一歩近付いた。他の皆から離れた場所で二人きり。彼は囁くように、あの時のような静かな口調で言ったのだ。 『約束は、まだ有効だから』 『えっ?』 ぱっと見上げる私は、よほど意外そうな表情をしていたのか。 『じゃあ、またな』 彼は照れたように笑い、背中を向けて立ち去った。 ――約束は、まだ有効だから。 ドリンクバーで、私のミックスジュースを彼が含んだ。あの時の感情が押し寄せてくる。 気が付くと、彼の背中は雑踏に紛れ、見えなくなっていた。 私はポケットからスマートフォンを取り出し、彼の新しい住所と電話番号を、その場で登録した。 学生時代に相馬くんと交換したメールは、今でも全部残っている。消去せず、特別なファイルを一つ設けて、大事に仕舞ってある。 彼もそうだろうか。そうであってほしい。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!