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いつまでも名刺に見入る私に、相馬くんは一歩近付いた。他の皆から離れた場所で二人きり。彼は囁くように、あの時のような静かな口調で言ったのだ。
『約束は、まだ有効だから』
『えっ?』
ぱっと見上げる私は、よほど意外そうな表情をしていたのか。
『じゃあ、またな』
彼は照れたように笑い、背中を向けて立ち去った。
――約束は、まだ有効だから。
ドリンクバーで、私のミックスジュースを彼が含んだ。あの時の感情が押し寄せてくる。
気が付くと、彼の背中は雑踏に紛れ、見えなくなっていた。
私はポケットからスマートフォンを取り出し、彼の新しい住所と電話番号を、その場で登録した。
学生時代に相馬くんと交換したメールは、今でも全部残っている。消去せず、特別なファイルを一つ設けて、大事に仕舞ってある。
彼もそうだろうか。そうであってほしい。
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