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彼はおしぼりでグラスの外側に溢れた果汁を丁寧に拭うと、大事そうに私に手渡した。それからサッと背中を向けて、皆のほうへと戻っていく。
ドリンクバーに来たのに手ぶらで戻る彼を見送りながら、私はかつてない感情を覚えた。ますます身体が火照ってくるのに戸惑い、困惑して……
あの時、私はカラオケの歌いすぎで喉がカラカラになっていた。熱を持つ首もとを押さえ、
『珍しく風邪引きそう。こんな時は果物のジュースがいいんだよね』
皆に冗談っぽく言って、ドリンクバーに立ったのだ。
そして気が付くと、相馬くんが隣にいた。
あんなことを言ったのは、私を心配してくれたからだ。そう、単に友達として、真面目に気遣いしてくれただけ。
あの頃の私はそう思い込んだ。かつてない感情に戸惑いながら、思い込もうとした。
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