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昨年末も飲み会が開かれ、私達は会っている。相馬くんは、ビジネスマンらしいスーツ姿での参加だった。
『仕事が忙しくてさ、着替える暇もなかったよ』
ちょっとだけ遅刻した彼は私の隣に座り、ネクタイを緩めながら、困ったように笑う。
どきりとした。
彼は二十六歳。童顔はいつの間にか男らしい顔つきへと変化していた。雰囲気だけでなく、一人の社会人として、すっかり大人になって。
しっくりと似合うスーツ姿と、清潔に撫で付けられた黒髪にそれを発見した。
ときめきを感じつつ、それでも私は彼の隣でいつものように振る舞う。学生時代のように、話し上手な彼と楽しく笑い合い、懐かしい時間を過ごした。
飲み会がお開きになった別れ際。彼は名刺を差し出して、何気ないふうに言った。
『そういえばさ、本店勤務になって住所が変わったんだ。それから、携帯も』
名刺の裏を見ると、新しいアパートの住所と電話番号がきちんとした筆跡で記されている。ときめきは更に高まるけれど、私はそれを表に出さず、心で彼に問いかけた。
これまでどおり、変わらない関係でいてくれるのか、と。
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