私はそうして生きている

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 着ようとした白いワンピースにシミがあった。  真っ白なワンピース。    もらってから、一度も着たことがなかった、ワンピース。    べそをかきながら、お母さんにシミができたことを知らせていると、後ろから陽子さんが顔をのぞかせて来て私に言った。 「ああ、シミになっちゃったのね」  うなずくと『貸して』と言われたので、おずおずと差し出したワンピースを受け取ると、まじまじと見てしんみょうなカオをしてから陽子さんは言った。 「あのね、古いものだしシミ抜きをすると布が傷んでしまうと思うの。  それよりね、色を変えてみたらどうかと思うのよ、どうかしら」    首を傾げて尋ねてくれた陽子さんの表情が、大人になっても忘れられない。    祖母が若い頃に作ったドレスを、母がリメイクした白いワンピース。  けれど、ろくな手入れもしないままにしまい込んでいた生地に染み込んだシミは、とうてい抜くことはでき無いだろと判断をして幼かった私に提案したものの、自分が母娘の思い出の品に手を加えて良いものかすぐに後悔の念が湧き上がってしまったのだと言う。  「お母さんは、気にしないと思うよ。母さん」    あの日藍色に染めてもらったワンピースは、今は娘が着ている。  私には、母と呼ぶ女性が二人いる。  『陽子さん』と読んでいた二人目の母は、ワンピースを着てはしゃいでいる娘を見ながら懐かしい話を持ち出した。  幼すぎた私はあの頃、お母さんから言われた『陽子ちゃんの言うことをよく聴いていい子にしてね』という言葉に素直に従いすぎていて思考を止めていた。  だから母さんに『お母さんは、ここであなたを見守ってくれているよ』という言葉もおかしな風に脳内処理して、遺影をお母さんと繋がる小窓のように思っていた。  そんな状態を変えるきっかけは、母さんがお母さんの遺した白いワンピースを藍染めした時だったように思う。  あの日から、私の思考は少しずつ動いた。    今は娘のものになった藍色のワンピース。  次はどんな風に変わるのだろう。
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