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 生まれたときから変わらない、誰も居ない街路を歩いて行く。  ヒィカとミィについて考えようとしたとき、ふと、近頃はよく人に会っているなと思った。昨年は、実家に一度帰ったときに両親と、レベッタですら三度ほどしか会っていない。もちろん、新しい人と話すことも一切なかった。  孤独の国らしからぬ人との遭遇率だが、不思議と悪い気はしなかった。たまにはこんな時期があってもいいだろう。  もしもこれがずっと続くのであれば考えものだが、幸いにして、レベッタもヒィカもそう何度も会おうとはしてこない。僕に気を使っているのか、そういう性分なのかは分からないが、どちらにせよ過ごしやすいことに変わりはなかった。  何度も腕をすり抜けそうになる紙袋を抱え直して歩いていると、遠くから見覚えのある人影が見えた。向こうもそれに気付いたのか、軽く手を振っている。やはり、ここ最近は人に会いやすい時期なのかもしれない。 「おはよう。レベッタ」 「もうこんにちは、だけど」  レベッタはくすくすと笑った。 「散歩?」僕は尋ねる。 「そんなところ」  僕はもう一度紙袋を抱え直す。レベッタは相変わらず、露出度の高い服を着ていた。 「レタは買い出し?」 「そんなところ」僕はレベッタと同じように答える。 「今さ、時間ある?」  そう言いながら、レベッタは僕が抱えていた紙袋に手を伸ばした。 「これ、重くない?」 「こっちのほうが軽いよ」  僕はもう片方の紙袋をレベッタに渡した。 「冷蔵庫に入れるものとかある?」 「特にないけど」 「じゃあ、今から公園いかない?」  紙袋を預けた時点でレベッタに付き合うという意思表示をしていたつもりだったが、上手く伝わっていなかったらしい。 「うん。いいよ」 「よかった」レベッタはにこりと笑った。「ここからだったら……ひだまり公園かな?」 「近くでいいなら、次の十字路を曲がったところにもあるけど」  レベッタは少し考えたあと、首を振った。 「ううん。ひだまり公園に行こ」  どんなこだわりでそこを選ぶのかは分からないが、僕自身どこでもよかったので同意する。 「最近はどう?」  レベッタは紙袋を抱え直したあと、ゆっくりと歩きだした。 「レベッタと会ったかな」 「なにそれ」 「最近あった出来事の話」 「そ」  返事こそ素っ気ないものの、レベッタの口元は笑っていた。今日は機嫌が良いらしい。 「あ。この店さ、品揃え偏ってない?」 「知ってるの?」僕は紙袋を両手で持ち直す。 「うん。元職場の通勤路……まぁ、ちょっと回り道だけど、たまに行ってた」 「僕の知り合いが働いてる」  レベッタは目を見開いた。 「レタ、知り合い居るの?」 「僕のこと、なんだと思ってるの?」 「孤独家」 「コドクカ? なにそれ」  レベッタは声を出して笑った。とても失礼なことを言われた気がしたが、レベッタが楽しそうにしているので、怒るタイミングを逸してしまった。 「ひだまり公園にモニュメントができたの知ってる?」  レベッタは話が終わったと思ったのか、次の話題を切りだした。 「知らないけど」僕は適当に答える。 「私もさっき寄って見つけたんだけど、びっくりした」 「なにに?」 「大きかった」 「モニュメントが?」 「うん。ただでさえマンションで影だらけなのに」 「物があれば影はできるよ」  レベッタは少しの間を開けて、ため息をついた。 「私は明るいのが好きなの」 「そっか」  このやりとりがいつもの意味のない会話だと気付き、僕は専用の思考回路に切り替えた。 「レタの家にいる……えっと、ハルちゃんだっけ?」 「コハル」 「そうそう。こないだ、レタの話を聞いて、うちにあるアンドロイドと話してみたの」  このあいだの僕の話がなにを指しているのかは分からなかったが、黙って話を聞くことにした。 「そしたらさ、思ったより意思疎通できるんだね」 「意思疎通って?」 「人と話す感じで話してみたら、人みたいに返事が返ってくる」  僕にとってそれは当たり前のことだったが、レベッタにとっては新鮮だったらしい。 「それで私、色々話してみたんだ」 「なにを話したの?」 「色々」レベッタは淑やかに笑った。「もっと早く使ってればよかったなって思った」 「家事とかはどうしてたの?」 「アンドロイド側の音声だけオフにしてた。うちの親もそれでなにも言わなかったし」 「そう」  返事をしながら、目の前に見えてきたひだまり公園の看板を見た。ふと、どうしてレベッタは雑貨屋からの帰り道にいたのだろう。と思った。僕が通る道は、おそらく彼女の生活圏から離れているはずだった。 「あ、見えるよ。モニュメント」  レベッタは公園を指さした。確かに形容しがたい形の物体が公園の真ん中に置かれている。 「あれは、なんのモニュメントなの?」僕は思ったことをそのまま口にする。 「さぁ」レベッタは首をかしげる。「タイトルは孤独って書いてあった」 「孤独……」
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