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「良かった、いつもの時間に間に合ったみたいで」
「間に合ってない、眉毛しか描いてないし髪も結んだだけ!」
翌朝、大慌てで支度した私とは正反対に余裕で玄関の鍵を閉めている律輝を見かけた。恨めしいけど悪いのは私。律輝が起こしてくれたのに二度寝した私の責任だ。
せかせか動いてエレベーターのボタンを押すと、不意に律輝が私の手を握ってきた。驚いて離そうとしたら、指を絡ませた恋人繋ぎをされて振り解けなかった。
「何してるの?」
「次、いつデートできる?」
「それ、朝一で言うこと!?」
焦っている状態で問いかけてくるものだから、思わず声を張り上げてツッコミを入れてしまった。
律輝は私の声の大きさに目を丸くして、その後含みを持たせたように笑った。スーツ姿の微笑はやばい、相変わらず律輝の笑顔に弱いため、一瞬にして抵抗する意志を奪われた。
「そのリアクションが見たくて。あと手を繋いだのはなんとなく」
すぐに表情筋は作用しなくなっていつもの能面に戻ったけど、その顔すら綺麗だからどう足掻いてもときめく。
その間もずっと手を繋いでいて離してくれなかった。たぶん、多少強引なスキンシップでも顔がいいから許されて来たのだろう。そして律輝は顔の良さを自覚してるから尚更タチが悪い。
「行きたいところがあったら教えて。特にないなら日程だけ教えてくれたら俺がいろいろ考える」
「分かった、予定確認して今日中に連絡するから!」
恋心のバロメーターを揺さぶられてばかりで振り切れそう。とっさに手を離して距離を取ると、「待ってるからよろしく」律輝は余裕しゃくしゃくで5階に上がってきたエレベーターに乗り込んだ。
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