偶発的救世主

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偶発的救世主

 結婚を考えていた彼氏にセフレが7人いることが発覚して別れたのが1年前。  仲のよかった職場の同期が会社の金を横領して飛んで、私まで疑われた半年前。  階段を踏み外し足の骨を折ったのが3か月前。  ことごとくツイてない1年を経験した私、青山(あおやま)小夏(こなつ)の現在唯一の楽しみは―― 「おはようございます、朝から風強いですね」  マンションの隣の部屋に住んでいるイケメンと挨拶を交わすこと。    隣人は180cmは超えているであろう長身に、スーツが似合う黒髪の正統派イケメンだ。家を出る時間が被るから、平日はほぼ毎朝彼に遭遇していた。 「おはようございます。台風の中お互い出勤ですか、世知辛いですね」  鍵を閉めながら、流し目で視線を走らせるその仕草が最高で、接近している台風なんてなんのその。最初は挨拶しか交わさなかったけど、段々と世間話ができるようになり、私は日々密かな幸せを噛み締めている。  彼のことは名前は知らないし、歳も知らない。ただ、3か月前骨折した際には、何かと心配して荷物を持ってくれたりしたから、悪い人ではないと思う。  正直気になってけど、彼女いるんだよな。2か月くらい前だけど、超絶美人と一緒に部屋に入っていく場面を見かけたから間違いない。 「お気をつけて」 「はい、ありがとうございます」  まあいいや。彼女がいなかったら、なんて妄想を膨らませる痛いアラサー女に成り下がるより、こうやって毎日会話できることに楽しみを見出してるくらいが私にはちょうどいい。
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