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爆音が店内を揺るがす。
思っていたとおり、おじいさんは念仏をやめて立ち上がり、音楽を止めた。
「お待たせしてすまんねぇ」
「いえ。御愁傷様です」
「大丈夫。まだ二号と三号がいるさね」
再びゆっくりと奥に消えていく。
「あの!」
また同じことの繰り返しになりそうな予感がして、聞こえるよう大声で呼び止めた。
おじいさんは俺の声に反応して、振り返ってくれた。
そのとき、入口が開き、金切り声が響いた。
「ちょっと! もういい加減にしてよ! うるさいったりゃありゃしない!」
高音のデスボイスがおばさんから発せられていた。
おばさんは俺を素通りして、おじいさんに詰め寄っていく。
「家賃もいつになったら払ってくれるのさ! もう半年は待ってるんだよ! 払えないなら、とっとと出てってくれ!」
どうやら、おばさんはこのビルの大家さんらしい。
なんだか俺はいたたまれなくて、そっと床屋を出た。
髪を触りながら歩きだし、もう自分で切るか剃ろうかなと考えた。
***
数日後。スーパーの上を見たら、床屋はなくなっていた。おじいさんやカットくんがどうしているのか、ちょっとだけ気になった。
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