カットくん

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 少し前までは閑静なベッドタウンだった最寄り駅。今は駅前には、深夜まで営業している店が光り合っている。俺のように遅くまで仕事する者たちのために。  俺の目は、回転しているトリコロールカラーへと動いていた。  あんなところに、床屋があったのか。  いつも行くスーパーの二階。灯り回っているサインポールへと足は向かう。  近づくと、「スピード仕上げ千円」との看板がある。  時間がない安月給の身にはちょうどいい。 「こんばんはー。今、いいですか。こんばんはー。すみませーん」  中にはいり、声をかけても返事がない。昔ながらの床屋という店内。見渡すと、「ご用の方は押してください」と記載のボタンがカウンターにあった。  ためらいなく、押す。  爆音。ハードロックが鳴り響きだした。  あまりの煩さにもう一回ボタンを押すも、止まってくれない。  少しして、奥からおじいさんがよぼよぼと姿を現し、音楽を止めた。 「いらっしゃい。耳が遠いもんでね。これが呼び出しにいいんだわ。さ、お掛けください」  と、椅子にさしのべる手は震えている。  こんなんでカットできるのか不安になるが、今さら引き返せないし、今しか髪を切る時間はない。
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