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それからまた十分。カットくんは動く気配をみせない。
最近、スピード仕上げの床屋やヘアサロンは増えていて、十分以内で完了するのが魅力である。なのに、この床屋に来てから、すでに二十分は経過している。
「……うーん。こいつ、動かんなぁ」
とつじょ、拳が上がった。
おじいさんは高々と振り上げ、思いきりなぐった。大事にしているであろう初号機を。
ネジが飛び、なにか板もはずれた。
よぼよぼの体のどこにそんな力があるのか。拳の強さは半端なく、ロボットはぐちゃぐちゃに金属音を立てながら崩れ散った。
おじいさんも床に崩れるように座りこみ、泣きながら念仏を唱えだした。
年のせいで判断力が鈍っていたのだろう。起こってしまったあとで、やってしまったことに気づいたようだ。
にしても、居心地が悪い。
ひざまつき念仏を唱える人の横で、座っているだけというのは、ちょっと心苦しい。
「あ。あのう」
念仏を途中で止めるのは悪いと思ったけど、どうしたらいいかわからず、声をかけてみる。
おじいさんは手をこすり合わせ、念仏を唱え続けるばかり。俺の声は聞こえないらしい。
もう一度、大声で話しかけてみようとしたとき、最初に押したボタンが頭に浮かんだ。
あれなら、一発で反応してくれるだろう。
俺は椅子から離れ、カウンターのボタンを押した。
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