愛しのマイガール

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 駅に入るとクーラーが効いていて汗が引いていくのを感じた。休日なだけあって切符売り場には沢山の人が列を作っていた。  彩夏は僕の手を名残惜しそうに手放すと売り場に並んだ。僕はICカードがあるから大丈夫だ。  片道切符ならどれ程いいか考えたが、残念な事に僕にとっての家はこの街にしかない。 「ちゃんと買えた?」 「……なんか子供扱いしてない?」 「子供用の切符を買った高校生を、僕は彩夏しか知らないからね」  彩夏の言い訳が始まる前に電車がホームに到着した。僕は改札に、彩夏は駅員に切符を提示して入る。 「電車って速いよね」 「すごい当たり前の事だね」  脳が溶けた様な会話だ。呑気な雰囲気に浸りながら電車に乗って、窓側の席で向かい合った。紫色の座席は高級感があって、田舎を時速100kmで後方へ置き去りにしてくれる。 「夏って感じがしていいね」  ふと彩夏がそうこぼした。 「……風景の事?」 「うん。田んぼに水が張ってて、一面緑色で、酸素が美味しそうに見えるよね」 「遠目から見ると、そうかもね」  田舎の実情は住んでみないと分からない。例えば町おこしで移住の話が出て、田舎に住みたい人がいても騙されてはいけない。水道代や野菜が安いとか、福利厚生がしっかりしてるとか、そんな甘言に惑わされてはいけない。どんなに良く見える場所でも、駄目な部分は絶対にあるのだから。 「やっぱり小さく見えるね」  彩夏は遠ざかっていく田舎を、やっぱり名残惜しそうに眺めている。蝉の声も川のせせらぎも、電車の中じゃ聞こえない。でもこうやって見ていると忌まわしい田舎の記憶が呼び覚まされそうで、僕は目を逸らした。  代わりに僕は水族館のパンフレットを開いて彩夏に見せる。小魚の群れやアシカもいるらしく、彩夏は目を輝かせてそれを見ている。 「ペンギンいるの?」 「いるよ。多分」 「ペンギンって食べると美味しいのかな?」 「どうだろう……って、え?どうしてその思考に至ったんだ……?」  ペンギンの味について思いを巡らせている彩夏は、じゅるりと涎を垂らした。彩夏の中でペンギンは美味しいと結論が出たらしい。 「ペンギン見ても食べちゃ駄目だよ?」 「大丈夫だよ、多分……」  水槽を突き破らないか観察する必要があるなと思って、ちょっと笑った。
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