愛しのマイガール

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 許せない理由はたった一つだ。人には定められた生き方があって、レールの上を走る場合が多い。僕にとってのそれは、家族の存在だった。  僕は今まで休日に外出を許可された事が殆ど無い。彩夏と初めてデートした日と、幼稚園の時のプール遊びの時。2回。たった2回だ。今回のデートも罵声飛び交う空間で死ぬ気で勝ち取った1日なのだ。  他の休日は全て、勉強をするための日だ。家から出る事は許されず、休憩も無く。1日12時間の勉強を、親に後ろで監視されながらしている。小学1年生から、ずっと。  平日は最低7時間。テストの成績で前後するが大方そんな感じだ。よくこの日まで理性と正気を保てたなと、自分を褒めてあげたい。  当然こんな生活を続けていたら友達なんて出来る筈が無い。学校では寝不足と戦って、家ではこんな場所1日でも早く出ていきたいという願いで眠りを妨げられる。  しかも学校では田舎特有の陰気臭いイジメが流行っていて、いつも目に隈を作っている僕は真っ先にイジメの対象になった。彼等は肉体的苦痛よりも精神的苦痛を与えるのが上手く、こんな偏屈な思想を持つまでになってしまった。頼れる人は、僕の場合0人いた。  『田舎』も『家族』も、両方怖い。  反抗しようとしても、出来ない。僕の元来の気質が関係しているのか、自分は頑張らないと駄目な人間なのだと刷り込まれてしまった。反抗しようとすると体が震えて、これ以上踏み込めば今までの記憶以上の事が起こると脳に教えてくれる。  でも今1番怖いのは、彩夏に嫌われる事だ。僕の過去が暴かれて、灰色のパレットに垂れ流されたどす黒いインクを見せたくない。  彩夏は希望だ。  僕の愛しの、マイガールなのだ。  彼女に嫌われる位なら、死んだ方がマシだ。  浅い関係だ、無意味な感傷だなんて僕が1番分かっている。だから今日でその関係を終わらせる。  僕は今日、彩夏に別れを告げる。  彩夏にはもっと相応しい人が星の数ほどいるし、僕の傷で彼女を傷つける位なら、無かった事にした方がいい。  嫌われる位なら━━━━━━━━━━━
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