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幾ら勉強を頑張っても、親のあの罵声が、イジメが心を蝕んでやまない。僕は魚みたいに自由に生きれない。一生『田舎』の奴隷なのだ。
「彩夏。今までの思い出は全部忘れて、違う誰かと生きて欲しいんだ。僕は駄目人間だから、別れた方がいい」
言葉が詰まる中、僕は本心を口に出した。
なんて恥ずかしく愚かな言葉だろう。でも今の自分を包み隠さず、正直に打ち明けるならこの言葉しかない。思考はもう崩壊寸前だった。
「……明日私達は海に行くの。海に辿り着くまでに私達は色んな困難を受ける。でも最後は到着して、渚の上で飛び回って遊ぶの」
「……何を言ってるのか、分からない」
「分からなくていいよ。蒼太はきっと、色々苦しい事があったんだよね。私は気づけなかった。ずっと見つめていたのに」
彩夏は水を飲んで、一息ついた。
「私、辛い時どんな言葉をかけたらいいか分からないよ。でも未来の話なら出来る」
「……分からないよ」
「海に行くの。皆反対して、私達を妨害してくる。遠い所だからやめろって、お前は駄目人間だからどうせ無理だからって。でも、そんなの関係ないよ。誰からも評価されなくても、駄目だって言われても関係ない。したい事をするの。電車に乗った時みたいに遠くに行けば蒼太の嫌いな人も小さくなって、笑い飛ばせるよ」
したい事をする。そんな事言われたのが初めてで、顔が強ばる。
「僕は、許されるのか?」
「許されなくてもするの。誰かに許されたいから、生きるの?」
さっき頼んだ料理が届いて、暖かい匂いが広がる。彩夏はパスタをラーメンみたいに啜って食べていく。
「早く料理食べて、明日の計画練ろう!」
「……彩夏」
「何!?」
「……ありがとう」
僕は涙を無理やり止めて、彩夏と向かい合う。感謝と照れ臭さを、一言に込めて。
「彩夏。その髪飾り、似合ってるよ」
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