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最初に雪野さんと話したのは、彼女のブックカバーの色が変わった日だった。
10月のある日。いつも図書室の受付カウンターで本を読んでいる彼女のブックカバーが、淡いブルーからワインレッドになっていた。
貸出カードに名前を書いた後、吃ってしまって「あっ」とだけ漏らした僕に、雪野さんは〝なんだこいつ〟という顔をした。
「えっと…カバー、か、変えたんですか?その、本の…あの……」
すぐそばにあるドアの小窓から差す西日で染まるカウンターに置かれた本を指差すと、
「染め直しただけ」
と、僕とは対照的な非常に簡潔な答えが返ってきた。
「染め…えー、すごい…っすねー……」
「………」
コミュ障全開な僕の態度が悪かったのか、雪野さんの腹の虫の居所が悪かったのか、以降の発言は全てスルーされた。
この1往復半が、雪野さんとの初めての会話の全容だ。
3年生で図書委員の雪野さんと1年生で部活にも委員会にも無縁の僕との接点は、たまに図書室で会うことがあるという、ただその一点のみだった。
学校と家の中間に位置する塾の時間までの暇潰しに寄るだけで、僕は本を借りたのすら、この日が初めてだった。話し掛けるきっかけが欲しくて適当に持ってきただけなのに、分厚いハードカバーなんか借りてしまって、鞄の重さに憂鬱になった。それも〝上〟なんて書いてある。読み切っても完結しない騙し討ちみたいな本だ。
そもそも、同級生とすらロクに話せないまま友達ゼロ期間を延ばし続けている僕が、高校入学から半年、当番の時に見かけるだけの彼女にどうして声を掛けようと思ったのかといえば、それはやっぱりブックカバーの色が変わっていたからなのだけど、なんでそれが気になったのかについては自分でもよくわからなかった。
しかし、その日を境に、僕の目や耳は雪野さんを追いかけるようになり、結果的に〝彼女の変化〟について知ることとなった。
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