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1、笑わなくなった。
当番外で雪野さんが図書室に居合わせなかった日。彼女の友人らしき人たちが話す声が、斜向かいの僕にも聞こえてきた。夏休みが明けてしばらくした頃から、雪野さんは無愛想になったのだという。
元からそうでは?と僕なんかは思ったのだが、言われてみれば本の借り方などをカウンターで優しく微笑みながら教えている姿を何度か見た気がした。窓辺の席で毎回ボケーッとしているだけの僕は、愛想を披露する対象外だったのだろうと納得もした。
2、付き合いが悪くなった。
これも図書室で小耳に挟んだ話だが、以前の雪野さんはそこそこフッ軽な人であったらしい。
バイトをしつつも空いている日は友人と出掛けたりしていたそうだが、最近は誘っても断ってばかりで、楽しみにしていたお泊まり会も直前でドタキャンされたのだと、友人らしき人物は大変落ち込んでいた。
所属する手芸部にもほとんど来なくなったと話していたので、ブックカバーは自力で染めたのかもしれない。雪野さんは器用なようだ。
3、成績が落ちた。
日直で集めたプリントを届けに行った時、ちょうど雪野さんが職員室を出ていくところだった。
呼び出した本人と思しき先生が隣のデスクの先生に〝このままだと志望校が…〟と悩ましそうに零していたのを見る限り、以前の雪野さんはかなり成績優秀だったようだ。
笑顔が減り、ドタキャンが増え、成績が落ちた。
秋になって急に変わった雪野さんに、いったい何があったのだろう。まさか紅葉みたいに気温で変化したわけじゃあるまいし。それか秋花粉で出不精になってるとか?と、僕はブタクサに涙ぐむ目を捲ったシャツの袖でこすりながら、例のごとく図書室の隅っこで興味もない図鑑をテーブルに開き、ボーッと窓の外を眺めていた。
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