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3階にある図書室からは、グラウンドがよく見渡せる。蛍光色のビブスをつけたサッカー部が紅白戦をやっていた。ビブスは黄色とピンクだけど。
「………」
程なくして、外周をランニングするジャージの一団へと視線を逸らす。
僕はサッカーがあまり好きではない。ルールを知らないのもあるが、中学の頃こぞって僕をいじめていたのが、みなサッカー部の連中だったからだ。
その点、高校生活はとても気楽だ。顔を会わせただけで殴られることも蹴られることもない。友達はいないが、こじれて敵に回すリスクを考えれば全然苦ではない。
フッ軽としてやってきた雪野さんも、そういった自由さに気付いただけなんじゃないだろうかと心のどこかで考えていたが、それは単純に僕の願望なようにも思えた。
大して利用者のいない図書室で、カウンターと窓辺の席にポツリと座る雪野さんと僕は、どこか似ているんじゃないかと勝手に感じていた。
そして、周りの会話で知った実際の彼女は、友達に囲まれて明るく笑い、先生たちの期待も背負う優等生でーーーつまり、僕とは似ても似つかない人だったわけで。だから僕は彼女の変化が、ちょっと疲れただとか面倒になっただとか、そんな気まぐれな理由だったらいいのになぁなんて願っていた。
「あっ」
バスの時間が迫っていることに気付いて、慌てて席を立つ。
図鑑を棚に戻して鞄と学ランを抱え出入り口へ向かうと、雪野さんはいつものようにカウンターで読書をしていた。昨日までとの違いといえば、セーラー服の下に黒いハイネックのニットを着ているくらいだ。無理に引っ張ったのか、指先まで伸ばした袖口が少しヨレていた。
「あの……寒い…すか」
「日当たり悪いから、ここ」
「ああ…」
雪野さんとの2度目の会話もまた、秒で終了した。
淡く西日を受ける彼女と壁掛け時計に一瞥くれて、結局、それ以上のコミュニケーションは断念した。
廊下へ出ると、多くの生徒が僕と同様に腕捲くりをしたり、ボタンを開けたりしていた。今日はこの時期にしては暖かい小春日和というやつで、日当たりの悪い北側の廊下や図書室でも、学ランを羽織ると暑かった。
雪野さんは寒がりなんだろうか。もしくは、風邪でも引いたんだろうか。顔や耳が赤かったような。
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