小春日和のそれの色

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 ホームルームの後、日直の雑用を手早く済ませて図書室へ向かう。走りたい衝動を抑えても下手な競歩みたいな早歩きに留めるのが精一杯だった。  1年生でコミュ障の僕が3年生の教室を訪ねるなんてできるはずもなく、途方もなく長く感じる授業に耐えて放課後を待つしかなかった。  頼む。いてくれ。  心の中で呟いて引き戸を開くと、入ってすぐの受付カウンターには学ランの図書委員が座っていた。  まずい。どうしよう。頭がオーバーヒートしそうになって、額を押さえる。  雪野さんが3年何組かすらうろ覚えなのに、図書室以外で彼女のいる場所なんか知ろうはずもないが、しかし、僕は今すぐにでも彼女に会わなければならなかった。  僕の抱いていた違和感や疑問を結んでいった線の描き出すものが、雪野さんの変化の根幹であるか確かめなければならない。  彼女に会う可能性のある場所。会ったことがある場所はどこか。この図書室の他はーーー 「…あっ」  ドアを開けっぱなしで棒立ちしているかと思えば、いきなり声を上げた僕に、カウンターの学ランは目を合わさないようにと俯いた。  下手くそな競歩で職員室の前まで辿り着いた時、もう1つのドアから金髪が出てくるのが見えた。髪の上半分だけを後ろで結んだスタイルも、今日は適温そうな黒のハイネックも健在だ。 「雪野さん」  振り向いた顔が〝またお前か〟という目をしていたので、僕は咄嗟に鞄から本を取り出して見せた。以前、話し掛ける口実に借りた本だ。 「こ…っ、これ、返した…くて…」  彼女は無表情だったけれど、呆れられているのだけは何となく雰囲気で察した。 「当番の人にどうぞ」 「かっ、借りたのと同じ人に返さないと、なんか気持ち悪いじゃないですか!」 「………」  滅茶苦茶な言い分に雪野さんは閉口し、張本人も絶句した。こんな変な理屈の方が何倍も気持ち悪い、と鳥肌が立ったが、彼女は黒髪の時と何ら変わりない冷たい目付きで踵を返すと、早足で僕の横を通り過ぎた。  鞄を片手に玄関と逆方向に向く雪野さんの爪先に、僕は尻尾を振る勢いでついていった。
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