小春日和のそれの色

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「これ、面白かった?」  ようやく泣き止んだ僕をあやすような口振りで、雪野さんは今まさに返却されようとしているハードカバーを指差した。 「えっ…、いや、読んでない…っす」 「じゃあなんで借りたの」 「………」  答えに困って目を泳がせていると、彼女は鞄から例のブックカバーを取り出して、中身が見えるよう半分だけ布を外して見せた。ワインレッドの下から現れた表紙は、カウンターの上の本に酷似した装丁で〝下〟と書かれていた。 「もう一度借りて、ちゃんと読みなよ。結構面白いから」  そういえば名前を書いた時、貸出カードに雪野さんの名前もあった気がする。 「…読み切れるかなぁ、2冊も…」 「上中下だから3冊だよ」 「……3冊かぁ」  盛大に溜息を吐き出す僕を、雪野さんは〝なんだこいつ〟という顔で可笑しそうに笑った。
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