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「ぎゃーっ!」
鞄の中の生首と目が合って、大きな悲鳴を上げてしまう。
遠くへ投げ飛ばしたいくらいだが、私の手は鞄をしっかり握っていた。
動揺しながらも、頭の一部分では冷静に考えていたのだろう。中身は殺人事件の証拠品になるはずだから損壊させてはまずい、という理性が働いたのだ。
「何だ、何だ?」
「どうしましたか……?」
私の叫び声を聞きつけて、人々が集まってくる。
ほとんどは野次馬だったが、ホームで仕事中の駅員も含まれていた。彼は私の様子を目にした途端、こちらを指差して喚き始める。
「ひ、人殺し……!」
「違います、私じゃありません。これは車内に残された忘れ物で、私は持ち主を追って降りただけで……」
むしろ駅員よりも、他の人々の方が頼りになりそうだ。スマホを取り出して撮影する者もいたが、その中から「警察に電話を!」という声も聞こえてきた。
そうこうしているうちに……。
「すいません。それ、私の忘れ物ですよね?」
のほほんとした口調で、あのハンサム男が現れた。この騒動の張本人だ。
「さ、殺人犯人! 逮捕する……!」
それまで私を責めていた駅員が、ぶるぶると震えながら、今度はハンサム男に指を突きつける。
別に人殺しの現場を捉えたわけではないから、駅員に逮捕権はないと思うのだが……。
心の中で私がツッコミを入れている間に、当のハンサム男は軽く笑っていた。
「失礼な……。私が殺人犯人? いったい何の冗談ですか?」
「しらを切るな! こちらの方が、証拠の生首を……」
さらに追求しようとする駅員に対して、彼はバタバタと手を振って否定する。
「いやいや、勘違いしないでください。生首は生首ですけど、作り物ですよ、それ」
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