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卵の殻の外は夜
最高の目覚めって知ってるか?
せっかく出会えたんだ。教えてやろう。
その前に、俺が誰か分かるか。分からない? 識別信号を出してないってか。そりゃそうだ。これは着てるだけで動作してないからな。
信じる信じないは別として、ホントはこんな服いらないんだ。俺は。ずっと昔はちょいと貴族的な服にマント。そういう格好をしてた。でも、ここでそんな姿で立ってたら近づく前に通報されてただろうな。
今はもう心配ない。十分近寄れたし、お前は俺の目を見たからな。もう動けないだろ? 話だけはできるようにしてやったけど、他は指一本も動かない。な。
で、その様子からして任務じゃないな、遊びか? なるほど、個人的な天体観測か。いいねぇ。すぐ誰かが様子見に来る心配はない、と。
たしかにここは天体観測にはもってこいだよな。分かるよ。こんなきれいな星空はない。だって、邪魔な太陽はこの足のずっと下だもんな。おっと、下ってのは科学的じゃない言い方だったか。まあ許せ。俺だって『科学的』な存在じゃない。
でも、ここは『科学的』だよな。大したもんだ。お前たちの『科学』は。
俺も少しは理解しようと勉強したんだぜ。ダイソン・スフィアって言うんだろ。これは。
問い。太陽のエネルギーを余さず利用するためにはどうすればいいか。
答え。全部覆っちまえばいい。なるほどそうだが、実現しちまうのがお前らのすごいとこだ。
おい、おしゃべりは嫌いか? まあ我慢してくれ。人と話すのは久しぶりなんだ。なんせここは広いからな。そりゃ広いよな。もとの地球、太陽間の距離を半径とした球殻なんだから。お日様を中心に据えて、さ。
それで、表面積は海も陸も考えずに単純計算でもとの地球の五十五倍。獲物とはほとんど出会わない。お仲間となんかもっと出会わない。
俺は飢えにも孤独にも強いが、ちょっとばかしまいってたんだ。
神様、お許しを? 何を言う。俺は神に反した存在だよ。許しはそっちに祈ってくれ。
そう、お前らはいいよな。神があって。俺にはない。だから日の光の下にはいられなくなっちまった。
知ってるか? もとの地球じゃ、夜になったら目覚めて、朝日が昇る前に隠れて眠ってた。それでも仲間たちは狩られていった。なんてったって俺達の弱点は知られすぎたし、日光そのものを遮る術なんてなかったしな。どんなに隠れても日が昇るのは時間の問題で、そうなったらなぶり殺しだ。
このダイソン・スフィアができるまでは。
俺はすぐに悟った。この球殻の外側こそ理想世界だって。恐ろしく広いって事は見つかりにくいって事だし、何かあっても対応が遅れるはずだ。少なくとももとの世界ほどの素早さでは行動できないに違いない。
そう思って完成までじっと身を潜めてた。つらかったが、それだけのことはあったよ。
こっち側には絶対日光は届かない。お前らが全部エネルギーとして利用してるからな。この殻の内側で。
だからここは常に夜。目覚めはいつも最高だぜ。
で、俺はごくたまに出てくるお前みたいなのを捕まえる。最初は服の機構がよくわからなくて失敗したけど、今はもう慣れた。
こうするんだろ、緊急用の弁を右にひねり、出てくる膜を使う。俺の牙は通るけど空気は少ししか漏れない。吸い尽くすまでは生きてる。それが重要なんだ。即死したり、凍りついたりしたら困る。
殺さないでくれ? ああ、そうか。それもいいな。飢えにまかせて吸い尽くすのはもうやめようか。
俺は寂しいんだ。仲間がほしいって思ってたところだ。
さっき最高の目覚めについて教えてやったけど、もうちょいサービスしてやろう。お前にもやるよ。最高を。
何、誰が化け物なんかにって? そうか、俺は化け物か。
うん、なら賭けをしよう。一時的にお前を俺と同類にしてやる。これから急に眠くなるはずだ。そして起きたら、お前は俺と同じ『化け物』の目で世界を見るようになる。
それが気に入らず、人間の目で見ていたいって思ったらそう言えばお前の勝ち。人としてお前を殺してやる。
でも、『化け物』の見る世界にもそれなりの美しさがあるって感じたら俺の勝ち。しばらく俺と一緒にいてくれ。色んな事を話そう。
ああ、もう眠くなったか。いいぞ、眠れ。人として眠れ。
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起きたか? いいよ。何も言うな。最高だろ?
さあ、一緒に走ろう。この永遠の夜を。
了
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