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……すごいなあ、三笠くんは。
好きなものを好きと言える三笠くんが、私にはものすごく輝いて見えた。
その反面、私はあの場で名乗り出る勇気もなくて、最低だ。グッと下唇を噛み、自身の意気地無さを歯痒く思う。
だが、目線を落としたところでふと気づく。
……そうだCD。三笠くんの手元に戻っちゃったら私から話しかけるきっかけがなくなっちゃう。
勢いよく顔を上げると、もうそこに三笠くんの姿はない。
「あれ?」
教室を見渡しても姿がない。
……ということは、彼はもう教室を出て帰ってしまったということだ。
私は慌てて教室を飛び出した。
***
どうにか、校門を出たところの三笠くんに追いついた。
「三笠くん!」
彼はくるっと振り返ると、少し驚いた顔をした。メガネ越しでも彼の目が僅かに開かれて見えたのだ。
「え、夏川さん?」
「三笠くん、あのね、」
「あー……えっと、ごめん今ちょっと急いでて。明日でも良い?」
「え、」
「ごめんね。じゃあまた明日」
「え、あの……」
…………あれ?
三笠くんは、私の用件も聞かずに小走りで行ってしまった。
…………もしかして、避けられ、た?
『急いでる』とは言われたけれど、なんだかよそよそしくて、話もさせてもらえないなんて、避けられたとしか思えない。
しかも、避けられる心当たりがあり過ぎるのだ。
先日付き合っているのかと誤解されてからはギクシャクしていたし、さっきだって私が本当のことを言えずにいたから、彼は私の代わりにクラスの笑い者になってしまった。
避けられて当然だ。
当然、だけど………。
避けられたと思うと、胸が苦しい。
制服のシャツにくしゃくしゃの皺がついてしまうくらい、私は無意識に胸の辺りを力一杯握りしめていた。
「ああもう、何やってんの私……」
自分で自分が嫌になる。
今日ほど、自分の行いを後悔したことはなかった。
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