7. 後悔先に立たずとはまさにこのこと

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「え、これまじ? やば」 「なに? やっぱり割れてた?」 「いや。見ろよこれ」  中身を見て驚いた桐島くんは、面白がって袋から取り出し、近くにいた友達に見せびらかした。 「これあれだろ? 男のアイドル!」  …………ああ、私のだ。  正確には、三笠くんに返そうと思って私が持ってきた物。 「なんだっけこれ。名前忘れたけど」 「……めておあ?」  ……ミーティアよ。 「簡単に読めない名前つけてきっとカッコつけてんだろ。てかそれより、こんなCD学校に持ってくるとか誰だよ」  ぷっ、くすくす、と桐島くんたちが憚ることなく笑い始める。  間違いなく、所有者を嘲るような笑いだ。  彼らにとって「オタク」というものは、ダサいとか痛いとかそういう対象だから。  私の物だとは露知らず、彼らは早速、クラスの中でもオタクと思われる女子を標的にし始めた。 「おい、お前のだろこれ?」  ヒラヒラとCDを高く掲げて、皆の注目を集めながら確認していく桐島くん。  ……ほんと悪趣味。所有者見つけて、みんなの晒し者にしようって魂胆が見え見え。 「違うけど……」 「わたしのじゃないわよ」  教室にいた女子はみんな、自分のではないと答えた。  当然だ。私の物なのだから。  でもこんな空気ではどうしても……いや、こんな空気なのでさらに、名乗り出る勇気は出なくなる。  名乗り出た瞬間に、クラスメイトの私を見る目が変わるだろう。  ドン引きされるか、面白おかしくネタにされるか。  どちらにせよ絶対に、この先の学生生活が辛いものになる。  そんな未来が分かっていて、そう簡単に名乗り出れるわけがない。  ……ああ、私のバカ。やっぱり学校に持ってくるんじゃなかった……。てか人の机の物落とさないでよ。それに、割れてなかったから良かったものの、一歩間違えれば弁償ものよ? 今じゃ買えない初回限定盤…………。いやほんと、割れなくて良かったけども。そう考えると、やっぱり気軽に持ってくるべきじゃなかったなあ。  頭の中は後悔の念でいっぱいだ。  この場をどうやって乗り切れるかも皆目見当がつかず参ってしまう。  すると、もう他に聞き尽くしてしまった桐島くんが、ようやく私にも尋ねてきた。 「なあ、これ夏川のでもないよな?」 「!」  もちろん、私ではない想定での質問だ。  念のためとか、話題に入ってほしくてとか、そんな意味合いで振ったのだろう。  ……どう答えよう。  嘘をついてもいいのだろうか?  でも嘘をついたら、今桐島くんの手に握られているCDはどうなる?  三笠くんに返さないといけないのに、ここで名乗り出なければ戻ってこないかもしれない。 「えっと……」 「なんだよ? お前のじゃないだろ?」  歯切れの悪い返事をしたので、桐島くんにきょとんとされ、再び聞かれた。  ……ええいもう、なんとでもなれ! 「…………それは私の、」 「僕のだよ」
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