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朝陽は思う。
(あの雪山で出会った真知子は、本物の雪女だったのかもしれない)
彼女は最期、白く溶けるように亡くなってしまった。
(知沙やこれから生まれてくる新しい命、そして母の幸せのため、雪女との約束を守り、あの雪山の夜の話は死ぬまで誰にも話さずにいよう)
朝陽は心に誓う。
(僕は父さんのような教師を目指すよ。でも、父さんのように早死にして、知沙や子供に悲しい思いはさせない)
ふと、父が笑って肯くイメージが浮かんだ。
朝陽は膝の間に座った知沙のお腹に優しく手を回すと、首筋に顔を埋めた。
「朝陽、くすぐったいよ……」
知沙は甘えるようにささやき、身体を朝陽の方へ倒すと、顔を朝陽の方へ向けた。
二人は唇を重ね合わせる。
東北にはこの冬一番の寒波が到来し、外では雪がしんしんと降り続いていた。
〈了〉
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