第二章 送迎ドライバー 3.

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 本来、送迎車でドライバーと女の子の会話は禁止だ。  他店への引き抜きや、ドライバーと女の子が男女の仲になるのを防止するためだ。女の子だって、客に愛想を振りまいて散々サービスした後で、ドライバーにまで愛想を振りまく気にはならないだろう。  朝陽の車でも、後部座席でただむすっとしていたり、スマホをいじったり、寝ていたりする子が多いのだが、それでも一言二言、言葉を交わすことはある。嫌な客に当たったあとなどは、ドライバーが相手でも愚痴を言いたくなるときだってあるのだ。  そんな中でもカレンは話し好きで、ドライバーにも気安い。ある時、朝陽が冗談で、「カレンさん、こんな人気で、いったいどんなサービスしてるんですか?」と聞くと、「あら、試してみる? 朝陽くんイケメンだから安くしておくわよ」と言われて慌てたことがあった。  盛岡で結婚生活を送っていたが、夫の暴力に耐えかねて子供を連れて実家に帰り、なんとか離婚した――そんな話を聞いたのも車の中でだった。  実家には母と認知症の祖父がおり、昼間はカレンが子どもの世話と祖父の介護をして母がパートに出て、夜は母に子供を頼んでデリヘルで働いている。家族には二十四時間稼働の食品工場の夜間勤務と偽っているらしい。  そんな身の上を聞いてから、警備の夜勤と偽っている自分に似てるなと、朝陽は勝手にカレンに親近感を抱いていた。
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