第二章 送迎ドライバー 4.

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第二章 送迎ドライバー 4.

 一度だけ、地元の大きなスーパーで、朝陽はカレンを見かけたことがあった。  十歳と六歳の男の子、三歳の女の子がいると聞いていたが、三人の子を連れて買い物をする姿は完全に母の顔だった。朝陽は声をかけず、家族がレジを通ってスーパーをあとにするのを陰から見送った。  こんな田舎でこういう仕事に関わっている人間には、何かしら事情があるものだと、改めて朝陽は思った。  そういえば、店にまだ入って間もない寧々(ねね)という女の子は、死んだ父親の代わりに借金を返していると言っていたっけ……。  送迎の仕事に慣れてきた頃、多田に言われたことがあった。 「何かあっても、事務所の俺はすぐには助けに行けない。近くで待機しているお前が頼りだ。女の子から助けを求められたら、部屋に飛び込む覚悟だけはしておいてくれ」  朝陽はそれを聞いて慌てた。そんな覚悟で始めた仕事ではなかった……。車の運転だけしてればいいと、最初に多田から聞かされていたのだ。  しかし、仕事に慣れ、多少なりとも働く女の子たちの事情を知るにつれ、そうも言ってもいられなくなった。今のところ、大きなトラブルはまだないが、何かあれば一番近くにいる自分が助けに行くしかないのはわかっていた。
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