第三章 知沙 2.

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第三章 知沙 2.

 朝陽の赴任先は、偶然にも亡き父が結婚前に勤めていた町だった。  父の勤務校は隣の学区だったが、子供の数が減って学区の再編が行われ、朝陽の勤務校が吸収合併する形で一つの学校に生まれ変わっていた。 「これもなにかのご縁だね。お父さんがきっと見守ってくれるよ」  赴任先が決まったとき、母はそう言って喜んでくれた。  その町は震災で壊滅的な被害を受けたが、大きな防潮堤工事が行われ、嵩上げされた土地には新しい街が作られて復興が進んでいた。  しかし、赴任してみると、人々の心はまだ復興の道半ばだということが感じ取れた。内陸に育ち、震災の悲惨さを経験していない、しかも教師になりたての自分が、受け入れてもらえるのか不安だった。震災の経験がない自分が、子供たちに震災教育をすることの責任も重かった。  そんな朝陽にとって、震災後に生まれた子供たちの、屈託のない笑顔が救いとなった。この子たちを明るい未来に導く。それは何よりも大切な使命に思えた。  朝陽は亡き父を父として、そして教師として、心から尊敬していた。父のようになりたくて教職を目指し、教育学部に進んだのだった。  ふと、小さな頃父に言われたことを思い出した。
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