第三章 知沙 3.

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第三章 知沙 3.

 赴任して三年目の夏のある日、突然知沙からメールが来た。  『今度の土曜日の夕方に、O町の短大時代の友達に会いに行くので、お昼前に朝陽の所に寄っていい?』  友達が住むO町は、内陸から電車で行く場合、JRで朝陽の赴任する町まで来て、そこで電車を乗り換えて行く海辺の町だった。  夏休み中でその日は仕事もなかったし断る理由はなかった。『いいよ。町を案内するよ』と返事をした。  約束の日、内陸から鉄道で知沙はやって来た。  久しぶりに見る知沙は、すっかり大人の女性に成長し、とても綺麗だった。白いワンピースを着て薄く化粧をし、緩くパーマをかけたダークブラウンの髪は肩に垂らしていた。 「朝陽、久しぶり!」  外見は変わっても、中身は昔の知沙のままで、改札で待つ朝陽を見つけると、笑顔で子犬のように駆け寄ってきた。  朝陽はそんな知沙を、少し眩し気に迎えた。 「ね、見て。このワンピース。可愛いでしょ?」  白い麻の半袖ワンピースは、知沙によく似合っている。 「ほら、可愛いって言え!」  素直に口にできない朝陽に、知沙はふざけて手に持っていたバッグで殴るふりをする。
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