第一章 雪山の夜 1.

2/2

27人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
 家を出る時、車には朝陽の母が用意してくれた十分な食料や飲料が積まれていた。 「楽しんでおいでね」  男二人の冒険に、息子だけでなく夫も気持ちが高揚している様子が見て取れ、母はにこにこ笑って送り出してくれた。  朝陽の母は一人娘だったため、父は婿養子として小野寺家に入った。  父の生まれは海沿いの町で、内陸のこの町とは本来縁のない人だったが、二十代の終わりに隣町の小学校に赴任してきてその誠実さが評価され、娘の婿を探していた朝陽の祖父のところに話が来た。     この辺では、教師は医者に次いで尊敬される職業だから、すぐに見合いがセッティングされた。  本人同士の印象もよかったようで話はとんとんと進み、次男坊の父の婿入りはすんなり決まったそうだ。  婿養子というと、婚家で義父や妻に遠慮して小さくなっているイメージがあるかもしれないが、朝陽の祖父は大学を出て学のある父を大切にしていた。その上、祖父にとっては次の次の跡取りとなる朝陽も生まれ、立派に務めを果たした婿養子になんの不満もあるわけがなかく良好な関係だった。  父と母の仲も良かった。今思えば、母は父にベタぼれだったようで、何かにつけては父を立てていたように思う。  祖母は朝陽が物心つく頃には亡くなっていたが、祖父と両親に囲まれ、温かい家庭ですくすくと成長していた。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加