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「朝陽のお母さんに作ってもらったんだよ」
「おふくろに?」
朝陽の母は洋裁が趣味で、小さな頃はよく朝陽と知沙に服を作ってくれていた。しかし、朝陽が手作りのボタンのついたシャツよりも、戦隊ヒーローもののTシャツを喜ぶようになってからは、「男の子はつまらないわ」と言って朝陽の服を作るのは止めてしまった。それでもときどき知沙には何かしら作っていたが、今も続いているのだろう。知沙は朝陽が実家を離れて寂しい母の、話し相手になってくれているようだった。
朝陽は知沙を駅前ロータリーに停めた車に案内する。
「これが朝陽の新車なんだ。かっこいいね」
給料を貯め、夏のボーナスも使って新しく買った車だった。それまでは、ずっと中古車だったのを、奮発して新車にした。
朝陽は知沙の小さな旅行バッグを預かり後部座席に置くと、助手席を開けて知沙を乗せた。
「ねえねえ、助手席に誰か乗せた?」
運転席側にまわって車に乗ると、唐突に知沙が聞いた。
「乗せたよ」
車をスタートさせて、朝陽が答える。
「え? 誰?」
「校長」
「校長先生?」
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