27人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
「うん、懇親会で飲みすぎてたから送って行ったんだ。僕はその時は飲まなかったから」
「なんだ、男の人か。女の人は?」
「まだ誰も――」
「嘘! お見合い相手は乗せてないの?」
知沙の口調は厳しい。
「見合い?」
朝陽が聞き返す。
「おばさんに聞いたよ。地元の人から見合いの話をもらったって」
知沙の不機嫌な理由がわかった。
少し前に、朝陽を気に入った老人の一人が、孫娘を嫁にどうかとそんな話を持ち込まれたことがあった。けれども、母を一人にしてこっちで結婚するつもりはないし、教師として一人前になるまで結婚は考えられないと丁重に断った。
それを知沙は母から聞いたのだろう。まるで浮気の疑いをかけられた夫が弁明するように、一部始終を説明する。
「なーんだ、心配して損した」
憎まれ口をたたきながらも、知沙のご機嫌はすっかり直っていた。
最初のコメントを投稿しよう!