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第三章 知沙 5.
知沙の母の真知子が、朝陽が知沙に近づくのを嫌がっていることは感じていた。
知沙が高校生になった頃からだろうか。朝陽が知沙を花火大会に誘ったり、自分の高校の文化祭に誘ったりしても、「お母さんが駄目って言ってる」と断られることが多くなっていった。昔はあんなに可愛がってくれていたのに、いつからか真知子自身も朝陽に対してよそよそしくなった気がした。
知沙を女として意識している自分の不純な気持ちに気づかれたからか……。真知子がふと見せる硬い表情にそんなことを感じていた。
知沙との距離が広がっていったのは、進学や就職が原因のようでいて、実はそっちが理由だったのかもしれない。
しかし、知沙だけは昔と変わらない。いや、その言動から、知沙が自分を幼馴染としてではなく、異性として慕ってくれていることに朝陽は気づいていた。だがそれは、昔から一番近くにいた異性に対する憧れの延長みたいなものだと思って、自分の気持ちには蓋をしてきた。けれども、こうして故郷から離れた地で知沙と二人きりになれば、その気持ちを押さえられる自信はなかった。
「今日、ここに泊めて」
知沙の言葉に、朝陽は激しく動揺した。
「ばーか。そんなことしたら、おばさんに袋叩きにされる」
動揺を悟られないよう、冗談で返した。
しかし、知沙はそんなことでは引き下がらなかった。
「お母さんには、友達の家に泊まるって言ってあるもん」
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