第三章 知沙 5.

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「だめだめ。さっきでわかっただろう? 女の子を家に泊めたなんてばれたら、明日には町中で噂になって大変だ」 「いいもん。そしたら、責任取って朝陽のお嫁さんになってあげるから」  言葉とは裏腹な知沙の真剣な眼差しに、朝陽は言葉に詰まる。 「朝陽」  知沙は膝立ちして朝陽にじり寄ると、朝陽の胸に飛び込むように抱きつく。その勢いで、朝陽は知沙の下敷きになって畳の上に押し倒された。  知沙は朝陽の顔の両側に手を置いて、朝日を見下ろす。朝陽の胸の上に知沙の胸の膨らみが重なり、お互いの心臓の鼓動が聞こえるようだった。知沙の身体から甘い香りがした。 「朝陽のこと、好きなの」  そう言うとゆっくりと知沙の顔が下りてきて、朝陽の唇に自分の唇を重ねた。慣れていないのがわかる、不器用なキスだった。しかし、それが愛おしく思えて、朝陽は右手で知沙の頭を押さえ、左手で知沙の腰を抱くようにしてキスを主導した。 「朝陽……」  長いキスの後、知沙が顔を離した。切なげな、すがるような表情の知沙は美しく愛おしかった。体を起こして今度は知沙を下にして、自分のものにしてしまいたい衝動にかられた。  体を起こそうと顔を左に向けた。そこには作り付けのクローゼットがあり、扉の一枚に姿見がわりの鏡が付属していた。  鏡の中には、横たわる自分の上に覆いかぶさる知沙がいた……。 「……!」  朝陽の心に動揺が広がる。
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