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第三章 知沙 7.
だが、知沙が海辺の町にやって来たあの日、答えがわかった気がした。
真知子があの雪女の正体だったのだ。知沙の横顔は、あの日の雪女を若くしたものだった。
父と真知子は隣人として付き合ううちに、ふと過ちを犯してしまったということはないだろうか。
尊敬する父には、別の顔があったのだ。
父への憧れが、がらがらと崩れていった気がした。朝陽は、泣きながら帰って行っただろう知沙を案じる余裕もなく、打ちひしがれていた。
そこに、さらに追い打ちをかける出来事が起きた。
その夏、学校の校庭で開かれた盆踊りに参加して、地元の町会が開いた直会に校長や先輩教員と参加したときのことだった。
「息子先生」と、亡き父を知る町会の老人のひとりがにこにこと朝陽の席に近寄って来た。
「小野寺先生の写真がないか探してみたら、ほら、写真を見つけたんだ」
老人は、2Lサイズの記念写真を朝陽に渡す。
「これは三十年位前の盆踊り大会の直会で、小野寺先生が映ってる」
見ると、宴会の席で三十人程の参加者が三列に並んで笑顔で映っている写真だった。朝陽の記憶よりかなり若い父が、最前列の左端の方に座って笑っていた。
「この人は……」
しかし朝陽は父の姿を懐かしむ間もなく、父のすぐ隣に座る女性に釘付けになる。
「お、懐かしいな。真知子先生だったっけか?」
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