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第一章 雪山の夜 2.
大人になった朝陽は、海辺育ちの人間が同じ県内とはいえ内陸の雪深い町に根付くのには苦労があったのではないかと思う。時々、父はひとりで山の家に行っては、一晩息抜きしていたようだった。
それについては、祖父も、そして母も、特に反対せず許していた。
母によれば、読書をしたり、何か理科の実験をしたり、プラモデルを作ったりしていたらしい。
「お父さんが死んだあと、山の家を整理したら子供が遊ぶみたいなおもちゃがたくさん出てきたのよ」
成長した朝陽に、母は笑って教えてくれた。
――今日は自分も山の家に泊まれる――
七歳の朝陽にとって、それは一人前の男と認められたようで誇らしい気持ちだった。
クリスマスにはサンタさんがタイミングよく、朝陽にぴったりのサイズのバックカントリー用のスキーセットとヘルメットをプレゼントしてくれていた。
自宅から車で三十分ほどの所にある山の家に車を停めて荷物を運び入れた後、二人は早速スキーの装備をつけて、山へと入って行った。
山スキーはゲレンデスキーとは違った。日が暮れる前に、朝陽はへとへとになって山の家に戻ってきた。まだ空は明るかったが、そこは慎重な父らしい判断だった。
薪で風呂を沸かし、父と一緒に入った。それから、父を手伝って『はっと汁』を作った。
父用の缶ビールと、朝陽用の清涼飲料水を母が荷物に入れておいてくれた。それを自然の冷蔵庫、つまり外気で冷やしておいて、風呂上りに乾杯した。疲れが飛んでいくようだった。
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