第四章 トラブル 1.

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「朝陽は……」  母は背中を向けたまま続けた。 「本当にいいの? 知沙ちゃん、お嫁に行っちゃって」  珍しく、母の口調が強くなった。母は朝陽の気持ちに気づいているのだろう。 「……」  朝陽は返事ができなかった。  少し寝て、母に買い物を頼まれていたので、昼過ぎに近所のショッピングモールの家電量販店に出かけた。  平日の昼間で空いているかと思ったら、スーパーが新装開店したばかりらしく、混雑していた。車を停められる場所を探して駐車場を周っていたら、少し先を横切った家族連れが目に留まった。  店長の多田とカレン、そしてカレンの子供たちーー男の子二人と女の子一人ーーだった。多田は小さい方の男の子の手を引き、もう一人の男の子とは何か楽しそうに話していた。カレンは女の子を抱っこして、多田の横で嬉しそうに笑っている。  家族にしか見えなかった。多田からもカレンからも聞いてなかったから、意外だった。  朝陽がドライバーを始めるとき、「店の女の子に手を出したら百万円払う」という誓約書を求められ、サインしていた。 (店長はいいのか?)  からかってやりたくなった。でも、多田らしいなと嬉しくも思い、知らないふりを通すことにした。  
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