第四章 トラブル 3.

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第四章 トラブル 3.

「トラブルなんで入ります」  フロントで曇りガラスの向こうにいるおばちゃんに声をかけると、エレベーターでホテルの三階に上がり、301の部屋のドアの前に立った。 「お客さん、お客さん、開けてください」  ドアをたたきながら、声をかける。  これだけうるさくドアの前で騒いでも出て来ないことが、完全に黒だった。  オートロックのホテルならフロントで鍵を開けてもらうこともできるが、ここは無理だ。スペアキーを借りに下に戻ろうかと思ったときに、ドアがカチッと開いたので中に飛び込んだ。  殴られたのか左目を晴らし、左頬が真っ赤になったカレンが逃げようとしているのを、客の男が押さえつけていた。 「朝陽君、助けて」 「幸子(さちこ)、許さねえ」  男が叫ぶ。 (幸子?)  カレンの本名のはずだ。前に車で聞いたことがあった。  男の手を何とか振りほどき、カレンは朝陽の後ろに逃げ込んできた。 「この人、別れた夫なの」  DVが原因で別れたという夫だったのか……。 「お客さん、落ち着いてください。暴力は困ります」 「うるせえ」  興奮した男は朝陽に向かってきた。    朝陽は思いっきり殴られったがなんとか吹っ飛ばされずに、その場に留まって男の両腕をつかんだ。 「警察を呼ぶことになりますよ」  そう言うと、カレンの方を振り返る。 「カレンさんはフロントで警察呼んでもらってください」 「う、うん。わかったわ」  カレンは部屋を出ると、慌てて廊下を走って行った。
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