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「幸子! 待て」
男がカレンを追おうとするのを、朝陽は羽交い締めにしてなんとか止める。
1時間後、まだ夜が明ける前に朝陽は家に戻った。
警察は呼ばずにすんだ。カレンがフロントに下りたところで多田が飛び込んできてカレンに車で待っているように言うと、朝陽を助けに部屋に上がって来たのだ。
穏やかな多田が珍しく真っ赤になって怒っていて、カレンの元夫の佐藤に強面で迫った。外見は素人には見えない多田の怒りように、あれだけ強気だった佐藤が急にしおらしくなった。
多田が問い詰めると、デリヘルのホームページを物色していて、たまたまカレンの写真を見つけたらしい。カレンの写真はかなり加工されていたが、胸元の黒子でカレンだと気づいたのだという。
多田は佐藤に名刺を出させた。名の知れた会社のものだった。
「いいか。俺は雇われ店長だ。こういう店の上には、どういう人がついているのかわかってるよな」
多田は指で頬に斜めに線を引いた。
実際のオーナーは元農家でガソリンスタンド経営をしている老人で、儲かると聞いて副業でデリヘルを始めてみたがノウハウがないのですべて多田にお任せという感じのズブの素人だった。
しかし、多田の外見も相まって、佐藤はその言葉を信じて完全にびびっていた。
「カレンさんが大ごとにしたくないと言っているから今回は大目に見るが、もしまた彼女に近づいたら裏で動いてもらうし、勤め先にも連絡するぞ」
多田がそう脅かすと、佐藤はガクガク震えて肯いた。
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