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第四章 トラブル 4.
佐藤を部屋に残して、朝陽と多田はホテルを出た。
フロントを通る時に、多田はポケットから一万円を取り出すと、曇りガラスの窓の下からすっと差し入れた。
「おばちゃん、騒がせてごめんな」
「あんた、こんなこといいのに。カレンちゃんは、時々差し入れしてくれたり、ほんといい子だから無事でよかったよ」
ガラスの向こうから、おばちゃんの困ったような声が聞こえた。
「ありがとな。俺の気持ちだから、受け取ってくれよ」
いつもすまないねえと、おばちゃんの声がした。
車に戻ると、朝陽の車の前に多田の車が停まり、中からカンナが飛び出してきて多田に抱き着いた。
「徹ちゃん!」
カンナが多田の名前を呼ぶ。
多田はバツが悪そうに朝陽を見るので、朝陽は苦笑いして「もうわかってますから、隠すことないですよ」と言った。
「朝陽、ほんと助かった。お前にも怪我させて申し訳にない」
「本当にごめんね。朝陽君が飛び込んできてくれて、どんなに心強かったか……」
口々に礼を言われる。
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